法律と手続き

遺言書を勝手に作成されたら?無効にする方法と立証のポイント

遺言書を勝手に作成されたら?

「お父様の遺言書、もしかしたら勝手に作成されたものかもしれない…」

そんな辛い疑念を抱えている方へ。この記事では、法的な知識に不安がある方でもきちんと理解できるよう、偽造が疑われる遺言書を無効にするための具体的な方法と、その証拠の集め方を専門家が分かりやすく解説します。

【忙しい方へ:要点まとめ】
勝手に作成された、あるいは偽造された遺言書は法律上「無効」です。諦める必要は全くありません。無効を主張するためには、偽造の事実を客観的な証拠で示すことが最も重要になります。

結論まず取るべき行動
勝手に作成された遺言書は無効と主張できます。①証拠集め:筆跡が分かる資料や生前の言動の記録を確保します。
感情的に対応せず、冷静に行動することが大切です。②専門家へ相談:弁護士に相談し、法的な手続きの準備を始めます。

勝手に書かれた遺言書かも?その疑念と不安を専門家が解決

遺言書を勝手に作成されたら?

この記事で分かること

  • 勝手に作成された遺言書を無効にするための全手順
  • 偽造を証明するために有効な証拠の種類と集め方
  • 遺言書を偽造した相続人が負う法的なペナルティ
  • 遺言が無効になった後の遺産分割はどう進むのか

信じていたご家族から、思いもよらない遺言書を提示される…そのお気持ち、本当にお辛いこととお察しします。大切なお父様を亡くされた悲しみも癒えぬ中、「生前の父ならこんなことは書かないはず」「どうも筆跡が違う気がする」と感じるその胸のざわめきは、決して気のせいではありません。むしろ、非常に重要なサインなのです。

まず、心に留めておいていただきたい大切なことがあります。それは、故人の本当の気持ちに基づかない遺言書は、法的に一切の効力を持たないということです。もしもその遺言書が偽造されたものなら、無効にできるのです。だからこそ、感情的にならずに、一つひとつ事実を確かめていく冷静さが、ご自身の正当な権利を守る力になります。

以下のような点に心当たりがある場合、遺言書が偽造されている可能性をより深く検討すべきかもしれません。

  • 筆跡が故人のものと明らかに違う
  • 生前の故人の意思や言動と内容が矛盾している
  • 特定の相続人に不自然なほど有利な内容になっている
  • 遺言書が作成された日付当時、故人が重い病気や認知症を患っていた

偽造された遺言書を無効にするための具体的な4ステップ

では、その疑いを確信に変え、ご自身の権利を守るためには、具体的にどう動けばよいのでしょうか。不安かもしれませんが、大丈夫です。ここからは、そのための法的な手続きを4つのステップに分けて、分かりやすく解説します。一人で抱え込まず、専門家の助けも借りながら着実に進めていきましょう。

まずは証拠集めから|筆跡鑑定や生前の言動の記録が重要

遺言書の無効を主張する上で、何よりも大切になるのが客観的な証拠です。「おかしいと思う」という気持ちだけでは、残念ながら法的な主張を認めてもらうことは困難です。ですから、まずは偽造を裏付けるための証拠をできる限り集めることから始めます。

特に有効なのが、故人の筆跡が分かる資料です。例えば、日記や手紙、丁寧に書かれた年賀状、過去の契約書など。日付がはっきりしているものであれば、なおさら信頼性が高まります。これらは、のちに専門家が「筆跡鑑定」を行う際の、重要な比較対象となるのです。

証拠の種類具体例
筆跡に関する資料日記、手紙、年賀状、署名のある契約書、役所への届出書類など
故人の意思に関する記録生前の会話の録音、メール、他の親族や友人による証言
作成時の能力に関する資料医療機関のカルテ、介護施設の記録、要介護認定の資料
状況に関する証拠遺言書を発見した経緯や状況のメモ、他の相続人の言動の記録

こうした証拠の一つひとつが、後の調停や訴訟でご自身の主張を支える、大切な土台となります。見つけ次第、しっかりと保管してください。

家庭裁判所での手続き|遺言無効確認調停・訴訟の流れとは

証拠がある程度集まったら、次の段階は家庭裁判所での法的な手続きです。といっても、いきなりドラマのような裁判になるわけではありません。まずは、話し合いから始めるのが一般的です。

手続きの基本的な流れは、以下の通りです。

1.  遺言無効確認調停の申し立て

まずは、家庭裁判所で「調停」を申し立てます。これは、裁判官と調停委員という中立な第三者を交えて、相続人全員で遺言の有効性について穏やかに話し合う場です。

この話し合いの中で、相手方(遺言書を提示した相続人)が偽造を認め、全員が「この遺言は無効だ」と合意できれば、ここで円満に解決となります。

2.  遺言無効確認訴訟の提起

ところが、調停でどうしても合意に至らなかった場合には、地方裁判所(または家庭裁判所)に「訴訟」を起こすという選択肢があります。訴訟では、集めた証拠を元に、裁判官に対して遺言書が無効であることを法的に主張し、最終的な判断を仰ぐことになります。

調停も訴訟も、法律の専門知識が不可欠です。この段階に進むことを決めたら、弁護士という心強い味方を見つけることが、解決への大きな一歩となるでしょう。

偽造を立証する方法とポイント|判例から学ぶ立証のコツ

遺言書を勝手に作成されたら?

訴訟において裁判官に「この遺言書は偽造だ」と認めてもらうためには、説得力のある立証が求められます。過去の裁判例(判例)を見ると、裁判所は一つの証拠だけで判断するのではなく、様々な事情をパズルのように組み合わせて、総合的に判断を下す傾向にあります。

立証を成功させるためのポイントは、主に以下の点です。

  • 筆跡鑑定の結果を提示する:専門家による筆跡鑑定書は、客観性が高く、非常に有力な証拠となります。
  • 遺言内容の不自然さを主張する:生前の故人の性格や、他の相続人との関係性から見て、なぜこのような不自然な内容になっているのか、具体的に説明します。
  • 作成能力の欠如を証明する:遺言書の日付当時、故人が認知症や重病で、自らの意思で文字を書いたり、内容を理解したりする能力がなかったことを、医療記録などを用いて丁寧に証明します。
  • 偽造の動機と機会を指摘する:遺言によって大きな利益を得る相続人に、なぜ偽造する動機があったのか、そしてそれを行える機会(故人と同居していたなど)があったことを示します。

これらの要素を組み合わせることで、「これは、どう考えても故人本人が書いたものとは考えにくい」という心証を裁判官に与えることが、勝訴への鍵となります。

遺言書を書き換えられた場合の対処法と証拠の集め方

遺言書全体が偽造されたケースだけでなく、元は本人が書いた遺言書の一部が、後から不正に書き換えられた(変造された)というケースも考えられます。

民法では、遺言書の加筆や修正(変更)について、非常に厳格なルールを定めています。
1.  変更する場所を指示する。
2.  変更した旨を付記して、これに署名する。
3.  変更の場所に押印する。

もし、これらの方式に従っていない訂正があれば、それはすべて無効です。訂正印がない、署名がないといった不審な書き換え箇所を見つけた場合は、その部分の無効を主張できます。証拠の集め方は偽造の場合と同様で、特に元の遺言書の内容を知る人の証言などが重要になります。

勝手に作られた遺言書に関する罰則と相続人の権利

理不尽な内容の遺言書を前に、「こんなことが許されていいのだろうか」と憤りを感じるのは当然のことです。勝手に遺言書を作成する行為は、単に相続争いの原因となるだけでなく、法的に厳しいペナル-ティが科される可能性があります。ここでは、偽造という行為がもたらす結末と、不利益を被った相続人に認められている正当な権利について解説します。

遺言書の偽造は犯罪?刑事告訴で問える罪について解説

はい、犯罪にあたる可能性があります。他人の名義で権利義務に関する文書を偽造する行為は、刑法上の「有印私文書偽造罪」という犯罪です(e-Gov法令検索:刑法第百五十九条)。遺言書はまさにこの典型例と言えるでしょう。

この罪が成立した場合、3ヶ月以上5年以下の懲役に処せられる可能性があります。もし、偽造が確実であると考える場合は、警察に被害を申告し、犯人を処罰してもらう「刑事告訴」という手段を取ることも選択肢の一つです。

ただし、刑事告訴はあくまで犯人の処罰を求める手続きです。遺言書を無効にして遺産分割をやり直すためには、先に述べた民事の「遺言無効確認訴訟」が別途必要になる点は、覚えておきましょう。

偽造した相続人はどうなる?相続欠格で権利を失う可能性

民法には、相続において著しく不正な行為をした者の相続権を、根本から剥奪する「相続欠格」という制度があります。

遺言書の偽造、変造、破棄、隠匿(隠すこと)は、この相続欠格事由の筆頭に挙げられています(e-Gov法令検索:民法第八百九十一条)。つまり、もしご兄弟が遺言書を偽造したことが裁判で確定すれば、その方は相続人としての資格を完全に失うことになるのです。

相続欠格者となった場合、たとえ本来受け取れるはずだった法定相続分すらも一切受け取れなくなります。いわば、相続という舞台から強制的に退場させられる、厳しいルールだと考えてください。

遺言書は絶対ではない!遺留分を請求する権利を知ろう

「遺言書は故人の最終意思だから絶対だ」と思われがちですが、法律は残された家族の生活を守るため、一定の相続人に最低限の取り分を保障しています。これを「遺留分」といいます。

たとえ、万が一遺言書が有効だと判断されてしまったとしても、その内容によってご自身の取得分が遺留分を下回る場合は、「遺留分侵害額請求」という形で、財産を多く受け取った相続人に対して金銭の支払いを求めることができます。

遺留分を請求できる人遺留分の割合(全体の)
配偶者と子法定相続分の2分の1
配偶者と親法定相続分の2分の1
子のみ法定相続分の2分の1
親のみ法定相続分の3分の1

兄弟姉妹には遺留分はありません。この遺留分という権利は、不公平な内容の遺言に対する最後のセーフティーネットとして、非常に重要な制度です。

誰が遺言書を見る権利を持つ?相続人のための確認方法

そもそも、法定相続人であれば、遺言書の内容を確認する正当な権利があります。遺言書を特定の相続人が独占し、他の相続人に見せないということは許されません。

特に、法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言の場合、発見者は家庭裁判所で「検認」という手続きを経る必要があります。検認とは、相続人全員に遺言書の存在を知らせ、その内容や状態を裁判所で確認する手続きのことです。

もし、相手方が遺言書の開示を頑なに拒むようであれば、家庭裁判所を通じて開示を求めることも可能です。決して一人で抱え込まず、正当な権利をきちんと主張してください。

遺言書トラブルでよくある質問

遺言書を勝手に作成されたら?

ここまで読んで、具体的な疑問がいくつか心に浮かんでいるかもしれません。最後に、多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。専門家への相談を考える上での参考にしてください。

Q. 遺言書に押された指紋は法的に有効な証拠になりますか?

A. 遺言書の有効性を判断する上で、押印は必須ですが、それが指紋(拇印)であっても法律上は有効とされています。ただし、実印などと比べて本人のものであることの証明が難しいため、他の証拠と合わせて総合的に判断されることになります。指紋が付着していること自体が、偽造を否定したり肯定したりする決定的な証拠になるわけではありません。

Q. 弁護士に相談するタイミングと費用の目安を教えてください

A. 「おかしいな」と感じた、その時点が最適な相談タイミングです。 手続きが進んで手遅れになる前に相談するほど、打てる手は多くなります。多くの法律事務所では、初回の相談を無料で行っていますので、まずはそこで状況を説明し、見通しや費用の概算を聞いてから正式に依頼するかを判断してはいかがでしょうか。費用は事案の難易度によって異なりますが、着手金と成功報酬を組み合わせた料金体系が一般的です。

Q. 遺言が無効になった場合、遺産分割はどうなりますか?

A. 遺言書が無効と確定した場合、その遺言は最初からなかったことになります。そのため、相続人全員で改めて「遺産分割協議」を行い、誰がどの財産を相続するかを話し合いで決めることになります。もし話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、解決を目指します。

Q. 公正証書遺言でも勝手に作成される可能性はありますか?

A. 公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が本人の意思確認を厳格に行うため、偽造の可能性は極めて低いです。しかし、可能性がゼロではありません。 例えば、遺言者が重度の認知症で判断能力が著しく低い状態にもかかわらず、他の相続人が無理やり手続きを進めたようなケースでは、後にその有効性が争われ、無効と判断された裁判例も存在します。

ひとりで悩まないで!専門家への相談が解決の第一歩

ここまで、勝手に作成された疑いのある遺言書への対処法を解説してきました。法的な手続きや聞き慣れない言葉が多く、かえって不安が大きくなった方もいらっしゃるかもしれません。しかし、どうか忘れないでください。最も大切なのは、決して一人で抱え込まないことです。

今回のポイントのおさらい:偽造遺言への対処法まとめ

最後に、今回お伝えした重要なポイントを、もう一度振り返ります。

  • 勝手に作成された遺言書は「無効」である。
  • 無効を主張するためには、筆跡鑑定などの客観的な証拠が不可欠。
  • まずは家庭裁判所の「調停」で話し合い、まとまらなければ「訴訟」へ。
  • 偽造は「相続欠格」に該当し、相続権を失う重いペナル-ティがある。
  • 弁護士への早期相談が、納得のいく解決への一番の近道。

不安な気持ちを抱えたままにせず、まずは無料相談から

その疑念や、「このままでは納得できない」という気持ちは、決して間違っていません。お父様の本当の想いを守り、ご自身の正当な権利を実現するためには、専門家の知識と経験がきっと大きな力になります。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。お一人で悩み続けるのは、精神的にも大きな負担です。ご自身の正当な権利を守るため、そして何より故人の本当の想いを大切にするために、まずは勇気を出して、専門家である弁護士にその胸の内を話してみてください。

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