法律と手続き

遺言書の書き方で相続させない 専門家が教える5つの法的対策

遺言書の書き方で相続させない 専門家が教える

「この人には財産を渡したくない…」そんな強い思いを抱えていませんか。

この記事では、遺言書の書き方で相続させないための法的に有効な手段と、トラブルを避ける注意点を専門家の視点で解説します。あなたの意思を確実に実現する一助となるはずです。

【忙しい方へ:要点まとめ】

遺言書で特定の相続人の取り分をゼロと指定することは法的に可能です。しかし、配偶者や子供には最低限の取り分「遺留分」があるため、完全に相続させないのは困難です。遺留分のない兄弟姉妹が相手なら、遺言書だけで確実に対処できます。より強力な手段として「相続廃除」がありますが、要件は非常に厳格です。

この記事の結論

  • 遺言書で相続させないという意思表示は可能である
  • 「遺留分」という権利が意思実現の大きな制約となる
  • 専門家への相談が将来のトラブルを回避する鍵になる
  • 状況に応じた最適な法的手段を選択することが欠かせない

遺言書の書き方で相続させない意思を法的に有効にするには

遺言書の書き方で相続させない 専門家が教える

この記事で分かること

  • 相続させない遺言を法的に有効にする方法
  • 遺留分制度の仕組みと具体的な対策
  • 相続させたくない相手別の遺言書の書き方と文例
  • 紛争を避けるための付言事項の活用術
  • あなたの悩みに応じた専門家の選び方

特定の相続人に財産を渡したくないという想いを実現するには、まず日本の相続法における基本的な考え方を理解しておくことが不可欠です。遺言者の意思は最大限尊重されますが、そこには法律上の明確な制約も存在します。ここでは、その原則と例外を解説します。

遺言者の最終意思を尊重する遺言自由の原則とは

日本の民法では、個人が自分の財産を死後どのように処分するかを自由に決められる「遺言自由の原則」が認められています。これは、個人の最終意思を最大限尊重するという法制度の基本姿勢の表れです。この原則があるからこそ、遺言書を通じて特定の相続人に財産を「相続させない」という意思表示を行えます。

私も初めてこの原則を学んだとき、自分の意思が法的に認められるという安心感を覚えました。終活における大きな支えですね。

遺言書に「長男〇〇には一切の財産を相続させない」と記載すれば、その内容は法定相続よりも優先されます。しかし、この自由は無制限ではなく、次に解説する遺留分制度によって一定の制約を受けます。

  • 遺言の優先: 遺言書の内容は、法律で定められた相続ルール(法定相続)に優先します。
  • 意思の実現: 特定の相続人の取り分をゼロにしたり、相続人以外に財産を遺贈したりできます。
  • 法的根拠: 個人の財産処分の自由を保障するための基本的な考え方です。

最低限の取り分を保障する遺留分制度の基本知識

遺言自由の原則には、非常に重要な例外があります。それが「遺留分」制度です。これは、残された家族の生活保障や相続人間の公平を図るため、法律によって一定の相続人に最低限の遺産の取り分を保障するものです。

遺言によって遺留分が侵害された場合、その権利を持つ相続人(遺留分権利者)は、遺産を多く受け取った人に対して、侵害された額に相当する金銭の支払いを請求(遺留分侵害額請求)できます。つまり、「相続させない」と遺言に書いても、この遺留分までは奪うことができないのが原則です。

遺留分権利者相続財産全体に対する遺留分の割合(総体的遺留分)
配偶者・子・孫など1/2
父母・祖父母など(直系尊属のみ)1/3
兄弟姉妹なし

(出典:e-Gov法令検索 民法 第十編 相続 第七章 遺留分

どうしても相続させたくない子どもがいる場合、それでも遺留分は渡さなければならないのでしょうか?

お子さんには法律上、遺留分が保障されています。つまり『ゼロにする』ことは難しいのが原則です。ただし『相続廃除』という制度を利用すれば、特別な事情がある場合に限って遺留分も含めて相続権をなくすことができます。これは裁判所の判断が必要なので、弁護士などの専門家への相談が不可欠です。

兄弟姉妹には遺留分がないという重要なポイント

遺留分制度を理解する上で、特に重要なのが「兄弟姉妹には遺留分がない」という点です。遺留分が保障されているのは、被相続人の配偶者、子(や孫)、直系尊属(親など)に限られます。

このため、もしあなたが財産を渡したくない相手が兄弟姉妹である場合、状況は大きく変わります。遺言書で「兄〇〇には財産を相続させない」または「全財産を妻に相続させる」と明確に記載すれば、その兄弟姉妹は遺留分を主張することができません。したがって、あなたの意思がほぼ完全に実現されます。

相続させない目的を達成する遺言書の具体的な作成術

遺言書の書き方で相続させない 専門家が教える

法的な基本を押さえた上で、続いてあなたの意思を具体的に遺言書へ反映させる方法を解説します。誰に相続させたくないかによって、取るべきアプローチは異なります。ここでは、ケース別の書き方から、より強力な法的手段まで掘り下げていきます。

相続させたくない相手別の書き方のポイントと例文

遺言書で特定の人物に相続させないと記載する場合、その表現は明確かつ具体的でなければなりません。誰に相続させたくないかによって、注意すべき点も変わります。

子供や配偶者に相続させたくない場合は、遺留分への配慮が欠かせません。単に「相続させない」と書くだけでは、後日、遺留分侵害額請求をされる可能性が非常に高くなります。

  • 直接的な表現: 「遺言者は、長男〇〇(生年月日)には、遺言者の有する一切の財産を相続させない。」
  • 相続分ゼロの指定: 「遺言者は、長男〇〇(生年月日)の相続分をゼロとする。」
  • 他の相続人への集中: 「遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻△△(生年月日)に相続させる。」

これらの文例に加えて、なぜそのような判断に至ったのかを次に説明する「付言事項」で補足することが、円満な相続への鍵となります。

感情的な対立を避けるための付言事項の活用方法

付言事項とは、遺言の法的な記載事項以外の部分に、遺言者が家族への想いやメッセージなどを自由に書き記せる部分です。これには法的な拘束力はありませんが、相続人間の感情的な対立を和らげる上で非常に重要な役割を果たします。

なぜ特定の人に財産を渡さないと決めたのか、その理由や経緯、他の家族への感謝の気持ちなどを誠実に綴ることで、残された家族の理解を得やすくなります。

「長男には生前に事業資金として多額の援助をしてきたため、今回は妻の老後の生活を第一に考えた」など、具体的な事情を記載すれば、遺言内容の納得感を高める効果が期待できます。

相続権自体を剥奪する相続廃除という最終手段

遺留分をも含めて、相続権を完全に剥奪するための特殊な制度が「相続廃除」です。

これは、被相続人に対して虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行があった相続人について、被相続人の請求に基づき家庭裁判所が審判を下すことで、その相続権を失わせる制度です。

相続廃除が認められれば、その相続人は遺留分も失います。ただし、その要件は非常に厳格で、単に「仲が悪い」「親不孝だ」といった理由だけでは認められません。

客観的な証拠に基づき、家庭裁判所が慎重に判断するため、認められるハードルは極めて高いのが実情です。遺言で廃除の意思表示を行うことも可能ですが、これは最終手段と考えるべきです。

遺言書作成の悩みを解決できる相談先と専門家5選

遺言書の書き方で相続させない 専門家が教える

遺言書の内容が複雑であったり、将来の紛争が予想されたりする場合には、専門家の力を借りることが賢明な選択です。

しかし、弁護士や司法書士など、誰に相談すれば良いか迷う方も少なくありません。ここでは、あなたの状況に合わせた相談先の選び方と、代表的な専門家をご紹介します。

遺言書作成の相談先を選ぶ際に重要な比較基準

専門家を選ぶ際は、費用だけでなく、その専門性や対応範囲を総合的に比較することが欠かせません。あなたの目的が「紛争予防」なのか「不動産の名義変更」なのかによって、最適な相談相手は異なります。

以下の4つの評価軸を基に、複数の事務所を比較検討することをおすすめします。

評価ポイント

  • 専門性と実績: 相続案件、特に遺言書作成に関する経験が豊富か。
  • 費用体系の明確さ: 相談料、作成費用、成功報酬などが分かりやすく提示されているか。
  • 対応範囲: 遺言書作成だけでなく、将来の紛争対応や相続登記まで見据えているか。
  • 信頼性・相性: 親身に話を聞いてくれるか、説明は分かりやすいか。

おすすめ専門家サービス一覧

アイテム名価格詳細・相談URL
弁護士法人(初回相談無料・相続専門チーム)相談料:初回60分無料、以降30分5,500円~ / 遺言書作成:11万円~公式サイト等
司法書士法人(不動産相続・登記に強い)相談料:30分5,000円~ / 遺言書作成:8万円~ / 相続登記:6万円~公式サイト等
弁護士法人(相続紛争解決に特化)相談料:30分5,500円~ / 遺言書作成:15万円~ / 紛争案件は着手金+成功報酬公式サイト等
信託銀行(遺言信託サービス)契約時手数料:33万円~ / 遺言執行報酬:遺産額に応じる(最低110万円~)公式サイト等
行政書士事務所(公正証書遺言サポート)相談料:1時間5,000円~ / 公正証書遺言作成サポート:7万円~公式サイト等

弁護士法人(初回相談無料・相続専門チーム)

相続問題に特化した弁護士が多数在籍し、遺留分や相続廃除など複雑な法的トラブルを想定した遺言書作成に強みがあります。初回相談が無料の事務所も多く、気軽に法的リスクを相談できるのが魅力です。

おすすめポイント

  • 相続専門の弁護士が直接対応
  • 遺留分トラブルなど訴訟リスクを考慮した提案
  • 初回相談が無料で安心
項目内容
価格相談料:初回60分無料、以降30分5,500円~ / 遺言書作成:11万円~
主な取扱業務遺言書作成、遺産分割協議、遺留分請求、相続放棄、相続廃除
対応可能な遺言形式公正証書遺言、自筆証書遺言

司法書士法人(不動産相続・登記に強い)

不動産の相続を多く扱う司法書士事務所は、遺言書作成から死後の不動産名義変更(相続登記)までワンストップで依頼可能です。将来の登記手続きを円滑に進めたい場合に最適です。

おすすめポイント

  • 不動産の相続登記まで一括サポート
  • 将来の手続きを見越した遺言内容を提案
  • 弁護士より費用を抑えられる場合がある
項目内容
価格相談料:30分5,000円~ / 遺言書作成:8万円~ / 相続登記:6万円~
主な取扱業務遺言書作成支援、不動産の名義変更(相続登記)、遺言執行
対応可能な遺言形式公正証書遺言、自筆証書遺言(法務局保管制度含む)

弁護士法人(相続紛争解決に特化)

遺産分割調停や訴訟など、相続トラブルの解決実績が豊富な法律事務所です。既に相続人間で対立の火種がある場合や、「争族」を徹底的に避けたい場合に頼りになります。

おすすめポイント

  • すでに紛争の火種がある場合に頼れる
  • 徹底した紛争予防策を遺言に盛り込む
  • 調停や訴訟まで見据えたサポート
項目内容
価格相談料:30分5,500円~ / 遺言書作成:15万円~ / 紛争案件は着手金+成功報酬
主な取扱業務遺産分割調停・審判、遺留分トラブル対応、事業承継、遺言無効確認訴訟
特徴交渉・訴訟代理人としての活動がメイン

信託銀行(遺言信託サービス)

遺言書の作成相談から保管、そして死後の財産分配(遺言執行)までを組織として一貫して担うのが遺言信託です。財産が高額・多岐にわたる場合や、執行の確実性を最重視する場合に適しています。

おすすめポイント

  • 倒産リスクが低く長期保管も安心
  • 組織として永続的に遺言執行を担う
  • 高額な資産や複雑な財産配分に対応
項目内容
価格契約時手数料:33万円~ / 遺言執行報酬:遺産額に応じる(最低110万円~)
サービス内容遺言コンサルティング、遺言書の保管、遺言執行(財産調査・分配)
最低取扱資産額数千万円以上が目安

行政書士事務所(公正証書遺言サポート)

法律文書作成の専門家として、遺言書の文案作成や公証役場との調整をサポートします。特に相続関係が複雑でなく、紛争の可能性が低いケースで費用を抑えたい場合に適した選択肢です。

おすすめポイント

  • 専門家の中では比較的費用が安い
  • 公正証書作成の煩雑な手続きを代行
  • 相続トラブルの可能性が低い場合に最適
項目内容
価格相談料:1時間5,000円~ / 公正証書遺言作成サポート:7万円~
主な取扱業務遺言書の文案作成、公証役場との打ち合わせ代行、必要書類の収集
注意点紛争性のある案件(相続人間の交渉代理など)は対応不可

遺言作成で失敗しないための注意点とよくある質問

遺言書の書き方で相続させない 専門家が教える

せっかく作成した遺言書が無駄にならないための重要な注意点と、多くの方が抱く疑問にお答えします。法的に有効で、かつあなたの真意が伝わる遺言書を完成させるための最終チェックポイントです。

遺言書が無効になるケースと自筆で書く際の注意点

遺言書は法律で厳格な方式が定められており、一つでも要件を欠くと無効になってしまう可能性があります。特に自分で作成する「自筆証書遺言」では注意が求められます。

よくある無効の理由は以下の通りです。

  • 全文が自筆でない(財産目録を除く)
  • 作成した日付が記載されていない
  • 署名または押印がない
  • 内容が曖昧で特定できない

これらのリスクを避けるため、法的な確実性が高い「公正証書遺言」で作成するか、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度(出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度」)の利用を検討しましょう。

相続させない遺言に関するよくある疑問と答え

ここでは、特定の相続人に財産を渡したくないと考える方が抱きがちな疑問について、Q&A形式で解説します。

遺留分を、生前に放棄させることはできますか?

相続が開始する前(生前)に遺留分を放棄させるには、その相続人本人が家庭裁判所に申し立てて許可を得る必要があります。遺言者や他の相続人が強制することはできません。

最新の法改正で特に気をつけるべき点は何ですか?

2024年4月1日から不動産の相続登記が義務化されました。遺言によって不動産を取得した相続人は、原則3年以内に名義変更の登記をしなければなりません(出典:法務省「相続登記の申請の義務化について」)。遺言書を作成する際は、この義務を相続人がスムーズに果たせるような配慮も重要になります。

まとめ|確実な意思実現のために今すべきこと

遺言書の書き方で相続させない 専門家が教える

特定の相続人に財産を相続させないという強い意思を実現するためには、感情だけでなく、法的な知識に基づいた冷静な準備が不可欠です。遺言書はあなたの最終意思を形にするための強力なツールですが、その力を最大限に引き出すには正しい知識と手順が求められます。

まずはご自身の状況を整理し、誰に、何を、どのように残したいのか、そして誰に渡したくないのかを明確にすることから始めましょう。その上で、この記事で解説した遺留分や各種の法的手段を理解し、必要であれば専門家の助けを借りて、あなたの想いを確実な未来へと繋げてください。

あなたの想いを法的に有効な形で残すことは、残される家族への最後の責任とも言えます。少しでも不安や疑問があれば、まずは専門家の無料相談などを活用し、第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

参考・脚注

-法律と手続き