自筆証書遺言の書き方が複雑で、どのように進めれば良いかお困りではないでしょうか。
この記事を読めば、法的に有効な遺言書を作成するための5つの重要な要件や、具体的なケースに応じた例文が明確に理解できます。簡単な作成方法のポイントを押さえ、将来への大切な想いを失敗なく確実に残しましょう。
【忙しい方へ:要点まとめ】
手書きで作成する遺言書(自筆証書遺言)は、全文・日付・氏名を遺言者本人が自筆し、押印することで成立します。財産目録についてはパソコンでの作成も可能ですが、その場合、全てのページに署名と押印が必要です。法的に有効なものとするためには、民法で定められた5つの要件を満たす必要があり、これを欠くと無効になるため注意が求められます。法務局の様式例を参考にしたり、保管制度を利用したり、専門家へ相談することも有効な手段です。
- 手書きの遺言書作成は、正しい手順と法的要件の理解が最も大切です。
- 具体的な例文を参考に、ご自身の状況に最適な遺言書を作成しましょう。
- 法務局の保管制度や専門家の助言は、有効なサポートとなります。
- 将来の安心のため、ポイントを押さえた遺言準備が重要です。
初めてでも安心!自筆証書遺言の書き方の基本ステップ

この記事で分かること
- 自筆証書遺言の基本的な知識と、作成する上でのメリット・デメリット。
- 遺言書が法的に有効と認められるために遵守すべき5つの必須ルール。
- 様々なケースに応じた手書き遺言の具体的な作成方法と参考例文。
- 法務局が提供するひな形の参照方法と、財産目録作成時の注意点。
- 作成後の遺言書の適切な保管方法や、専門家へ相談する際のポイント。
手書きで遺言書を作成すると聞くと、専門知識が必要で難解に感じるかもしれません。しかし、 기본적인作成ステップといくつかの重要なポイントを事前に理解しておけば、ご自身の手で想いを形にすることが可能です。
ここではまず、自筆証書遺言がどのようなものか、その概要から丁寧に解説していきます。しっかりとした準備が、スムーズで確実な遺言書作成への第一歩となるでしょう。
自筆証書遺言とは?その特徴と作成メリット
そもそも「自筆証書遺言」とは具体的にどのような遺言方法なのでしょうか。これは、遺言を残したいと考える人(遺言者)が、その全文、日付、そして氏名を自身の手で書き記し、押印することによって作成する遺言書を指します(民法第968条)。専門家を介さずに作成できる手軽さから、多く利用されている方式の一つです。
この作成方法には、いくつかの特徴とメリット、そして注意すべき点があります。
自筆証書遺言の主な特徴とメリット・デメリット
メリット
- 公証人への手数料などが不要なため、費用を大幅に抑えられます(基本的に紙・ペン・印鑑代程度)。
- 特別な手続きや証人が不要で、いつでもどこでも思い立った時に作成・修正が可能です。
- 作成の事実や遺言の内容を他人に知られることなく、秘密を保持しやすいです。
デメリット
- 法律で定められた厳格な要件(後述)を満たしていない場合、遺言書自体が無効になってしまうリスクがあります。
- 自宅などで保管する場合、紛失したり、相続発生時に発見されなかったり、あるいは第三者によって改ざんされたりする可能性が考えられます。
- 遺言者が亡くなった後、原則として家庭裁判所での「検認」という手続きが必要になることがあります(法務局の保管制度を利用した場合は不要)。
これらの点を総合的に考慮し、ご自身の状況や希望に最も適した遺言の方式であるかを見極めることが肝要です。
遺言書作成前に必須!必要書類と準備のポイント
準備をしっかりしておけば、作成作業も落ち着いて進められます。焦らず一歩ずつ進めていきましょう。
実際に遺言書を書き始める前に、いくつか事前に準備しておくべきものや確認しておくべき事項があります。これらを整えておくことで、作成作業が格段にスムーズに進み、また、法的に有効な遺言書を完成させるための重要な基盤となります。特にご自身の財産に関する正確な情報をまとめた資料は、記載内容の誤りを防ぐ上で不可欠です。
スムーズな遺言書作成のために、主に以下のものを準備しましょう。
準備物 | 詳細・ポイント |
---|---|
筆記用具 | 長期間の保存に耐え、容易に改ざんできないよう、消えないインクのボールペンや万年筆(黒または濃い青色が望ましい)を使用します。鉛筆やフリクションペンなど、消去可能な筆記用具は避けてください。 |
用紙 | 特定の指定はありませんが、A4サイズの白い上質紙など、長期保存に適した丈夫なものが一般的です。メモ用紙や感熱紙などは不適切です。罫線の有無は問いません。 |
印鑑 | 法律上は認印でも有効とされていますが、遺言の真正性を高め、後の紛争を避けるためには、市区町村に登録された実印を使用することを強く推奨します。スタンプ印(シャチハタなど)は認められません。 |
財産を特定できる資料 | 預貯金通帳やキャッシュカード(金融機関名・支店名・口座番号の確認)、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)、有価証券の取引残高報告書、生命保険証券など、財産の内容と評価額を正確に把握できる資料を揃えます。 |
(任意)相続人等の情報 | 財産を渡したい相手(相続人や受遺者)の正確な氏名、生年月日、住所などを事前に確認しておくと、記載ミスを防げます。 |
これらの準備を丁寧に行うことで、落ち着いて遺言書作成に集中でき、記載内容の誤りや漏れを防ぐことができます。
遺言書作成で失敗しない!遵守すべき5つの法的要件

手書きで作成する遺言書が法的に有効なものとして認められるためには、民法で定められたいくつかの厳格な要件を全て満たしている必要があります。これらの要件の一つでも欠いてしまうと、せっかく遺言者の方が心を込めて作成した遺言書であっても、法的には効力がないものと判断されてしまう可能性があります。
ここでは、遺言書の作成で絶対に失敗を避けるために、必ず守らなければならない5つの法的なポイントを、具体的に解説していきます。
遺言を法的に有効とするための5つの絶対ルール
ご自身の最後の意思を法的に有効な形で残すためには、民法第968条に定められている自筆証書遺言の方式を厳格に守る必要があります。これらのルールから外れてしまうと、遺言書としての効力が生じないため、細心の注意が求められます。確実に想いを反映させるために、以下の5つの絶対的なルールは必ず遵守しましょう。
自筆証書遺言を法的に有効とするための主なルールは次の通りです。
- 遺言者が全文を自筆で書くこと: 遺言の本文、作成した日付、そして遺言者自身の氏名は、全て遺言者が自分の手で書かなければなりません。パソコンやワープロで作成した文書や、他人に代筆してもらったものは、原則として無効となります。ただし、平成31年(2019年)1月13日以降に作成される自筆証書遺言では、本文とは別に添付する財産目録については、自書でなくても良いとされました(財産目録の各ページへの署名押印は必要)。
- 作成した年月日を正確に自筆で記載すること: 「令和〇年〇月〇日」というように、遺言書を作成した日付を具体的に特定できるように、年月日を正確に自書します。「〇年〇月吉日」といった曖昧な記載や、日付の記載がないものは無効となる可能性が非常に高いです。複数の遺言書が存在する場合、最も新しい日付のものが有効と判断されるため、日付は極めて重要です。
- 遺言者が氏名を自筆で記載すること: 戸籍上の氏名を正確にフルネームで自書します。通称やペンネームなどでは、本人の特定が困難となり、遺言が無効となるリスクがあります。
- 遺言者が署名の下に押印すること: 自書した氏名の下、またはその付近に、遺言者自身の印鑑を押します。使用する印鑑は認印でも法律上は問題ありませんが、後の紛争を避けるため、そして遺言の真正性を高めるためには、実印を使用し、印影が鮮明に残るように押印することが望ましいでしょう。
- 加除訂正は法律で定められた方式で行うこと: もし遺言書の内容を書き間違えたり、追加したりする場合には、民法で定められた厳格な方式に従って訂正しなければなりません。具体的には、訂正箇所を指示し、変更した旨を付記して署名し、かつ変更箇所に押印するといった手続きが必要です。この方式に従わない訂正は、法的に無効となります。
これらのルールを一つひとつ確実に実行することが、法的に有効で、かつご自身の意思を正確に反映した遺言書を残すための鍵となります。
もし書き間違えたら、書き直すしかないんですか?
いいえ、訂正も可能ですが、民法で定められた方法に従って行う必要があります。訂正箇所に印を押し、訂正の内容と署名を記載するなど、手続きが細かく決まっていますので、慎重に行ってください。
財産目録の正しい作り方と住所記載の注意点
遺言書の中でも、どの財産を誰に相続させるのか、あるいは遺贈するのかを記す部分は、その遺言の中核をなす非常に重要な箇所です。特に、2019年の民法改正により、自筆証書遺言に添付する財産目録の作成方法に関するルールが一部緩和され、パソコンでの作成や通帳のコピーなどを利用できるようになりました。
ここでは、この財産目録の正しい作成方法と、遺言書に遺言者や財産を受け取る人の住所を記載する際の注意点について、詳しく解説します。
財産目録と住所記載に関する主なポイントは以下の通りです。
記載項目とポイント | 詳細説明 |
---|---|
財産目録の作成 | 法律改正により、財産目録については自書でなくても、パソコンで作成したり、預金通帳の写しや不動産の登記事項証明書のコピーなどを添付したりする方法も認められました。ただし、この場合、目録の全てのページ(記載が両面にある場合はその両面)に、遺言者が署名し、かつ押印することが絶対的な要件です。財産の種類、所在、数量などを正確かつ具体的に記載することが求められます。 |
不動産の記載方法 | 土地については、登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されている通りに、所在、地番、地目、地積を正確に記します。建物についても同様に、所在、家屋番号、種類、構造、床面積を正確に記載します。これらの情報に誤りがあると、相続登記の手続きに支障をきたす可能性があります。 |
預貯金の記載方法 | 金融機関名、支店名、預金の種類(例:普通預金、定期預金)、口座番号を正確に記載します。株式や投資信託などの有価証券についても、証券会社名、銘柄、数量などを具体的に特定できるように記述します。 |
遺言者の住所記載 | 法律上、遺言書に遺言者本人の住所を記載することは必須の要件とはされていません。しかし、遺言者が誰であるかをより確実に特定し、遺言の真正性を高めるという観点からは、戸籍上の氏名と併せて、作成時点での住所も記載しておくことが強く推奨されます。 |
相続人等の住所記載 | 同様に、財産を受け取る相続人や受遺者の住所も、法律上の必須要件ではありません。しかし、同姓同名の方がいる可能性も考慮し、財産を渡したい相手を誤りなく特定するためには、氏名、生年月日(可能であれば続柄も)と併せて、その人の住所も記載しておくことが望ましいでしょう。これにより、後の相続手続きがスムーズに進むことが期待できます。 |
これらの点を十分に理解し、財産目録の作成や住所の記載は、正確かつ慎重に行うように心がけましょう。
図解でわかる遺言書作成:具体的な例文と法務局様式

これまでに、手書きで遺言書を作成する際の法的な要件や、財産目録の注意点などを学んできました。ここからは、より実践的な内容として、実際の遺言書がどのように書かれるのかを見ていきましょう。
具体的なケース別の例文や、法務局が示している様式・ひな形などを参考にすることで、ご自身の状況に合わせた遺言書を、よりスムーズに、そして不備なく作成するための一助となるはずです。具体的な事例を交えながら、分かりやすく解説を進めます。
実際の文例を見ることで、『これなら書けそう』と感じる方も多いんです。ご自身のケースに近い例を参考にしてみてください。
ケース別で理解する!自筆証書遺言の書き方例文
どのような遺言を残したいかという内容は、遺言者の方の家族構成、財産の種類や規模、そして何よりもその方自身の「想い」によって、一人ひとり大きく異なります。そのため、万能な一つの書き方が存在するわけではありません。しかし、いくつかの一般的なケースを想定した自筆証書遺言の書き方例文を参考にすることで、ご自身の遺言書を作成する上での具体的なイメージを掴み、表現のヒントを得ることができるでしょう。
以下に、いくつかの代表的なケースにおける例文の骨子と、作成時のポイントを挙げます。
遺言書作成時の主なポイント
- 遺言書の冒頭には「遺言書」というタイトルを明確に記載します。
- 「遺言者〇〇(氏名)は、次のとおり遺言する。」といった形で、遺言の意思を表明する文言から始めます。
- 財産を渡す相手(相続人または受遺者)については、氏名だけでなく、混乱を避けるために続柄、生年月日、住所なども正確に記載することが望ましいです。
- どの財産を渡すのかについては、例えば不動産であれば登記事項証明書の記載通りに、預貯金であれば金融機関名・支店名・口座番号などを具体的に特定できるように記述します。
- 財産の渡し方については、「相続させる」(相続人に対して)、「遺贈する」(相続人以外の人や法人に対して、または相続人に対して特定の財産を渡す場合)といった適切な法律用語を用います。
- 遺言の内容をスムーズに実現するために、遺言執行者を指定する場合は、その者の氏名、住所を明記し、権限についても触れておくと良いでしょう。
- 遺言書を作成した年月日(例:令和六年五月二十六日)を正確に、かつ具体的に記載します。この日付は遺言の有効性を判断する上で非常に重要です。
- 最後に、遺言者本人が戸籍上の氏名を自署し、その下に押印します(実印推奨)。
法律的な効力はありませんが、本文とは別に「付言事項」として、家族への感謝の言葉や、なぜこのような遺産分割にしたのかという理由などを書き添えることもできます。これにより、相続人間の無用な争いを避け、円満な相続に繋がることも期待できます。
例えば、「全ての財産を配偶者に相続させる」というシンプルな内容であれば、「第〇条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻である〇〇花子(昭和〇〇年〇月〇日生)に相続させる。」のように記述します。財産の分配が複雑であったり、特定の条件を付けたい、あるいは相続人間の関係に配慮が必要な場合などは、後述する専門家への相談も積極的に検討することをお勧めします。
法務局のひな形はどこで?入手方法と書き方指南
自筆証書遺言を初めて作成する方にとって、白紙の状態から全ての文面を構成するのは大変な作業に感じられるかもしれません。そのような場合に心強い味方となるのが、法務局が提供している遺言書のひな形や記載例です。
これらを有効に活用することで、法律で定められた形式を満たしやすくなり、記載漏れや形式不備といったリスクを軽減するのに役立ちます。適切な情報を参照し、作成の参考にしましょう。
法務局が提供するひな形や様式に関する情報については、主に以下の方法で確認したり、入手したりすることができます。まず、最も手軽なのは、法務省や各法務局の公式ウェブサイトを閲覧することです。
これらのサイトでは、自筆証書遺言に関する制度説明の一環として、遺言書の基本的な書き方、記載例、さらには様式についての注意事項などが掲載されています。
特に、2020年7月10日から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用して遺言書を法務局に預けることを検討している場合は、提出する遺言書の様式に一定のルールがあります。具体的には、用紙のサイズはA4判と定められており、筆記面には上下左右に規定の余白を設ける必要があります。
また、複数ページにわたる場合はページ番号を記載するなどの決まりもあります。これらの詳細な様式については、法務局の窓口で確認するか、公式ウェブサイトで専用の案内を参照するのが確実です。ただし、法務局が提供するひな形や記載例は、あくまで一般的なケースを想定したものです。
ご自身の財産の内容、家族関係、そして何よりも遺言として残したい「想い」は一人ひとり異なります。そのため、ひな形をそのまま丸写しするのではなく、ご自身の具体的な状況に合わせて、文言を適切に修正したり、必要な条項を追加したりすることが不可欠です。ひな形はあくまで「たたき台」として活用し、内容は十分に吟味するようにしましょう。
遺言書に使用する用紙自体は、特に指定がなければ、文房具店などで購入できる一般的なA4サイズの便箋や上質紙で問題ありません。重要なのは、内容が明確に読み取れ、長期保存に適したものであることです。
これらの情報を参考に、間違いのない遺言書作成を進めていきましょう。
遺言書完成後の手続きと相談先:疑問もスッキリ解消

心を込めて遺言書を書き上げた後も、それで全ての手続きが完了するわけではありません。作成した遺言書をどのように保管し、将来その内容が確実に実行されるようにするためには、いくつかの重要なステップや知っておくべき情報があります。
また、遺言書の作成過程やその内容について、少しでも疑問や不安な点があれば、法律の専門家に相談することも、後々のトラブルを避けるためには非常に賢明な選択と言えます。この項目では、遺言書を完成させた後の具体的な手続きや、よくある疑問点について分かりやすく解説し、皆様の不安を解消するためのお手伝いをします。
法務局保管制度の利用法と公正証書との違い
手書きで作成した自筆証書遺言は、その保管方法が非常に重要です。自宅で大切に保管していても、紛失のリスクや、万が一の際には相続人に見つけてもらえない可能性も考えられます。こうした問題を解決するための一つの方法として、近年利用が広がっているのが法務局の「自筆証書遺言書保管制度」です。
この制度を利用すると、作成した遺言書を法務局で安全に預かってもらえます。一方で、遺言書の作成方法として古くから知られ、高い確実性を持つのが「公正証書遺言」です。それぞれの特徴、利用方法、そしてメリット・デメリットを比較し、ご自身に最適な方法を見極めることが大切です。
自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言の主な違いは、以下の表の通りです。
比較項目 | 自筆証書遺言書保管制度 | 公正証書遺言 |
---|---|---|
作成方法・場所 | 遺言者本人が自宅などで全文を自書します(財産目録はパソコン等での作成も可能)。 | 全国の公証役場で、公証人が遺言者の意思を聴き取り、法律の専門家として適切な文案を作成します。遺言者は内容を確認し、署名押印します。 |
保管場所 | 遺言書を申請した全国の指定法務局(遺言書保管所)で原本が保管されます。 | 作成した公証役場に遺言書の原本が厳重に保管されます。 |
作成・申請費用 | 遺言書1通あたり3,900円の申請手数料が必要です(2025年5月26日現在、法務省情報に基づく)。 | 遺産の価額や相続人の数などによって手数料が法律で定められており、一般的に数万円から数十万円程度かかります。 |
家庭裁判所の検認 | この制度を利用して法務局に保管された自筆証書遺言は、相続開始後の家庭裁判所における検認手続きが不要になります。 | 公正証書遺言も、相続開始後の検認手続きは不要です。 |
証人の要否 | 遺言書作成時に証人は必要ありません。 | 作成時に2名以上の証人の立会いが必要です。証人には守秘義務があります。 |
主なメリット | 比較的低コストで作成可能。法務局が保管するため紛失・改ざんのリスクを大幅に軽減。検認不要なため相続手続きがスムーズ。 | 公証人が関与するため、法律的な不備で遺言が無効になるリスクが極めて低い。高い証明力と執行力を持つ。病気などで自書が困難な場合でも作成可能(条件あり)。 |
主なデメリット | 遺言書の内容自体の法的な有効性(例えば遺留分侵害など)まで法務局が審査・保証するわけではありません。申請のために本人が法務局に出頭する必要があります。 | 作成費用が自筆証書遺言に比べて高額になる傾向があります。証人が必要なため、遺言の内容が証人に知られることになります(ただし守秘義務あり)。 |
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合、作成した遺言書(封をしていない状態のもの)、保管申請書、本籍地の記載のある住民票の写し(マイナンバー記載なし)、本人確認書類などを持参し、事前に予約した上で本人が法務局の窓口に出頭して申請手続きを行います。
詳細な手続きについては、法務省のウェブサイト「自筆証書遺言書保管制度について」(2025年5月26日閲覧)などで確認することが重要です。どちらの方式が絶対的に優れているということはなく、ご自身の状況や何を重視するかによって最適な選択は異なります。
費用を抑えつつ手軽に作成し、安全に保管したい場合は自筆証書遺言書保管制度が、より高い法的確実性や専門家による内容のチェックを求める場合、あるいは自書が難しい事情がある場合は公正証書遺言が適していると言えるでしょう。
専門家相談の費用は?司法書士依頼の目安を知る
自筆証書遺言の作成は、法律の要件を理解し慎重に進めればご自身でも可能です。しかし、財産状況や相続関係が複雑な場合、または法的な有効性に少しでも不安がある場合は、司法書士や弁護士といった法律の専門家への相談を検討しましょう。
専門家は、法的に有効な遺言書作成のサポートに加え、将来の相続トラブルを未然に防ぐための具体的なアドバイスも提供してくれます。
専門家(主に司法書士)への依頼費用の目安
専門家に遺言書作成の相談や依頼をする際の費用は、業務範囲や事務所の方針により異なります。以下に一般的な目安を示します。
相談・依頼内容 | 費用の目安 | 備考 |
初回法律相談 | 5,000円~15,000円程度(30分~1時間) | ※初回相談無料の事務所も増加傾向 |
自筆証書遺言の文案作成支援 | 数万円~10数万円程度 | 財産の価額、相続人の数、内容の複雑さで変動 |
自筆証書遺言書保管制度の申請サポート | 上記「文案作成支援」に含まれる場合や別途数万円程度 | |
公正証書遺言の作成サポート | 数万円~十数万円以上(専門家の報酬部分) | 公証役場手数料別途。書類収集、証人手配等を含む場合あり |
遺言執行者への指定(専門家が就任する場合) | 遺産総額の〇%(最低報酬額〇〇万円など) | 遺産額に応じた報酬体系が一般的 |
【費用が変動する主な要因】
- 財産の種類と評価額
- 相続人の数と関係の複雑さ
- 遺言内容の複雑性
- 依頼する業務の範囲(例:書類収集代行の有無など)
専門家を選ぶ際の重要ポイント
費用だけでなく、以下の点も考慮して信頼できる専門家を選びましょう。
- 経験と実績: 相続案件、遺言書作成に関する取り扱い実績が豊富か。
- 説明の分かりやすさ: 専門用語を避け、平易な言葉で丁寧に説明してくれるか。
- 信頼性・相性: 親身になって相談に乗ってくれるか、安心して任せられると感じるか。
- 明確な費用体系: 事前に見積もりや費用について明確な説明があるか。
可能であれば複数の専門家に相談し、提供されるサービス内容と見積もりを比較検討することをお勧めします。多くの事務所ではウェブサイトで費用体系を公開しているため、事前に確認しておくと良いでしょう。
安心してご自身の想いを託せる遺言書を作成するために、専門家の知識と経験を上手に活用してください。
Q&A:自筆証書遺言の頻出する疑問にお答えします
手書きで遺言書を作成するにあたり、多くの方が共通して抱える細かな疑問や、具体的な作成上の不安点が出てくるものです。ここでは、そうした自筆証書遺言に関して頻繁に寄せられる質問とその回答をQ&A形式で分かりやすくまとめました。
一度作成した遺言書の内容を後から変更したり、撤回したりすることはできますか?
はい、遺言者はいつでも自由に遺言書の内容を変更したり、遺言そのものを撤回したりすることが可能です。最も新しい日付で作成された有効な遺言書が、それ以前の遺言書の内容と抵触する部分については、新しい遺言によって前の遺言が撤回されたものとみなされます(民法第1023条)。全てを書き直す方法のほか、前の遺言の一部を撤回・変更する旨を記した新たな遺言書を作成する方法もあります。
夫婦や親子など、複数の人が一緒に1通の遺言書を作成することはできますか?
いいえ、法律(民法第975条)により、2人以上の者が同一の証書で遺言をすることは禁止されています(共同遺言の禁止)。遺言は、あくまで個人の最終的な意思を表示するものであるため、必ず各自がそれぞれ単独で遺言書を作成する必要があります。例えば、ご夫婦で同じ内容の遺言を残したい場合でも、夫の遺言書と妻の遺言書を別々に作成しなければなりません。
遺言書を作成する際に使用するペンや紙の種類に、法律上の厳密な決まりはありますか?
法律で特定の種類のペンや紙を使用しなければならないという厳密な規定はありません。しかし、遺言書は長期間保存されるものであり、また、後日その内容が明確に読み取れる必要があるため、筆記用具は消えにくいインクのボールペンや万年筆(黒または濃い青色が望ましい)を、用紙は丈夫で長期保存に適した上質な紙(A4サイズの白い紙などが一般的)を使用することを強く推奨します。鉛筆やシャープペンシル、消せるボールペンなどの使用は避けるべきです。
作成した自筆証書遺言は、必ず封筒に入れて封印しなければならないのでしょうか?
法律上、自筆証書遺言を封筒に入れて封印することは、遺言の有効性に関する必須の要件ではありません。封筒に入っていなくても、あるいは封印されていなくても、他の法的要件を全て満たしていれば遺言書は有効です。しかし、遺言書の内容の秘密を保持し、第三者による安易な開封や改ざん、汚損などを防ぐという観点からは、作成した遺言書を封筒に入れ、しっかりと封をして、遺言書に使用したのと同じ印鑑で封印(割印)しておくことが一般的に推奨されます。ただし、前述の法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合には、封をしていない状態で遺言書を提出する必要があります。
これらのQ&Aで全ての疑問が解決するわけではありませんが、基本的な注意点としてご理解いただければと思います。ご自身の状況に応じたより具体的な疑問や、法的な判断が難しい点については、やはり専門家へ相談することをお勧めします。
まとめ:後悔しないための遺言書作成最終チェック

これまで自筆証書遺言の作成ステップや法的要件などを解説してきました。最後に、あなたの想いを込めた遺言書が法的に有効かつ確実に執行されるため、そして後悔しないための最終チェックポイントをまとめます。
【遺言書作成~最終確認リスト】
- 法的要件は完璧ですか?
- 全文・日付・氏名の自筆、押印は正しいですか。
- 財産目録の各ページへの署名押印、法的な訂正方法は守られていますか。
- 形式不備は遺言無効の大きな原因です。細部まで見直しましょう。
- 財産の記載は正確・網羅的ですか?
- 不動産は登記情報通りか、預貯金は口座番号まで正確ですか。
- 株式なども特定に十分な情報が記載され、見落としている財産はありませんか。
- 受取人の指定は明確ですか?
- 誰に何を渡すか、氏名・生年月日・続柄などで誤解なく特定できますか。
- 具体的な財産指定が後の紛争を防ぎます。
- 「想い」は付言事項で伝えていますか?
- 遺産分割の理由や家族への感謝の気持ちを添えることで、相続人が内容を円滑に受け入れやすくなります。
- 法적効力はありませんが、大切なメッセージです。
- 保管方法と相続人への通知計画は万全ですか?
- 法務局保管制度を利用しますか、それとも自宅や第三者に預けますか。
- 相続人が速やかに内容を確認できる手はずを整えましょう。
【最終確認:専門家への相談も視野に】
内容に少しでも不安がある場合、財産関係が複雑な場合、または相続人間の関係に懸念がある場合は、無理せず司法書士や弁護士など法律の専門家に相談することも重要な選択肢です。費用はかかりますが、それ以上の安心と確実性が得られることもあります。
これらの最終チェックを丁寧に行い、あなたの大切な想いと財産を、確実に未来へ繋いでいきましょう。この記事が、その一助となれば幸いです。
参考・脚注