親族の法事を取り仕切る際、「懇志(こんし)」という言葉に戸惑う方は多いのではないでしょうか。お布施や御膳料など、専門用語の区別やマナーがわからず、失礼がないか不安ですよね。
初めて取り仕切る方は特にそう感じられるでしょう。ここでは、法要の「懇志とは」何かを明確にし、お布施との違いや相場、正しいマナーまで、法要準備を任された方が知りたい実務的な情報を丁寧かつ誠実に解説します。
【忙しい方へ:要点まとめ】
懇志とは、法要などで寺院に対し、「真心からの寄付」として納める金銭や品物のことです。僧侶の読経への謝礼(お布施)とは区別され、主に寺院の維持・運営や、特定の事業(永代経、伽藍修復など)への支援を目的に使われます。金額は「お気持ち」とされますが、地域やお寺の慣習で目安が異なるため、事前に親族や寺院に確認するのが最も確実です。
| 項目 | 懇志の要点 |
|---|---|
| 目的 | 寺院の維持・運営、特定事業(永代経など)への寄付 |
| 対象 | 寺院・お寺そのもの |
| 相場 | 用途による(永代経懇志は3万〜10万円目安が多い) |
| 表書き | 「懇志」「御懇志」「永代経懇志」 |
法要の「懇志とは?」お布施との違いと正しい基本定義

この記事で分かること
- 「懇志」の正しい定義と、お布施との明確な違い
- 法要で包むべき具体的な金額の目安(相場)
- 失礼のないのし袋の選び方と表書きの正確な書き方
- 宗派ごとの作法の違いや渡し方のマナー
「懇志とお布施、結局何が違うの?」法要の場で多くの人が抱えるこの疑問、大変よく分かります。それぞれの用語が持つ宗教的な意味合いと、実務的な使い分けについて、ここで明確に解説します。
「懇志」が持つ意味と、お布施や寄付との決定的な違い
「懇志(こんし)」の「懇」は「ねんごろ・まごころ」を意味し、「志」は「こころざし」を指します。したがって、懇志とは「真心からの志(こころざし)」のこと。これは、特定の事業や運営に対し、自発的に納める金銭や品物、すなわち「寄付」を指す、丁寧な仏教用語です。お寺が建物を維持したり、法要の場を整えたりするための支援金という位置づけですね。
一方で、お布施は、僧侶の読経や法話といった「法(教え)」に対する感謝の気持ちを表す金銭を指します。これは布施の教えに基づいたものであり、役務提供への対価(料金)ではない、という点が懇志との最も重要な違いです。懇志も広義ではお布施(財施)の一種ですが、寺院では実務上、明確に区別して扱われることがほとんどです。
- 懇志の主な意味合い: 寺院の運営・維持・特定事業(建物修復など)のための寄付
- お布施の主な意味合い: 僧侶の法務(読経・法話)に対する感謝の気持ち(財施)
法要における懇志の具体的な用途(御布施との使い分け)
法要や仏事の際に「懇志」という表書きが使われる具体的な用途について見ていきましょう。
| 用途の種類 | 納める目的 | 表書きの例 |
|---|---|---|
| 施設利用 | 法要で本堂や斎場など寺院施設を利用する場合 | 本堂使用懇志、御懇志 |
| 特定事業 | 永代にわたり仏法を伝えるため(浄土真宗で顕著) | 永代経懇志 |
| 建物維持 | 寺院の伽藍(建物)の修復や改築、設備購入 | 伽藍修復懇志、御懇志 |
| その他 | 法要の開催・護持(維持)のための支援 | 御懇志、志 |
このように、懇志は僧侶個人というより、寺院全体や特定の事業を支える目的で用いられるのが特徴です。法要の準備でこれらの費用を求められた際は、「御布施」と混同しないよう、内訳をきちんと確認しておきましょう。
【一覧比較】懇志・お布施・御膳料・御車料の違い
法要で包むべき費用は多岐にわたるため、特に慣れない方は混乱しがちです。ここでは、親族や寺院に失礼のないよう、それぞれの金銭が何を意味し、誰に対して納めるものなのかを明確に整理します。
| 名目 | 意味合い | 納める相手 | 表書き |
|---|---|---|---|
| 御布施 | 僧侶の読経や法話への感謝(対価ではない) | 僧侶(お寺へ) | 御布施、お布施 |
| 懇志 | 寺院の運営・維持、特定事業への真心からの寄付 | 寺院(お寺へ) | 御懇志、永代経懇志 |
| 御膳料 | 僧侶が会食(お斎/おとき)を辞退した際のお食事代 | 僧侶 | 御膳料、御斎料 |
| 御車料 | 僧侶がお寺から施主宅や会場へ移動した際の交通費 | 僧侶 | 御車料 |
特に、御布施と懇志は、同じお寺に渡す費用でも目的が異なります。不安な方は、法要の前に寺院に「それぞれお包みした方が良いでしょうか」と相談してみてはいかがでしょうか。
慣習で決まる「懇志の金額相場」と包む際の基礎知識

懇志の金額について、寺院から「お気持ちで」と言われると、かえって「いくら包むべきか」と悩んでしまうものですよね。相場がないとは言え、目安を知っておくことは安心につながります。ここでは、地域性や慣習を考慮した相場感と、お金を包む際の注意点を解説します。
「お気持ちで」と言われた時の具体的な金額目安(地域差に注意)
懇志の金額は、ご心配の通り、明確な決まりや全国一律の相場は存在しません。しかし、一般的な目安とされる金額感は以下の通りです。
- 施設利用(本堂使用など): 1万円〜3万円程度
- 寺院の維持・運営(一般的な懇志): 5千円〜1万円程度
- 特別な事業(永代経懇志など): 3万円〜10万円程度
これはあくまで参考額であり、寺院や地域の慣習、また施主の経済状況によって大きく変動します。無理をして高額を包む必要はありません。もっとも大切なことは、ご自身の無理のない範囲で「まごころ」を込めることです。
【失敗しないためのアドバイス】
どうしても相場を知りたい場合は、お寺に直接聞くのが最も安全で確実です。もし、親族に聞くのがためらわれる場合は、「以前、皆様はどのようになさっていたか」といった客観的な聞き方をすると、角が立たず円滑に進むかもしれません。
永代経懇志など用途別の相場感と判断基準
特定の目的のために納める懇志は、一般的な懇志よりも金額の目安が設定されていることがあります。
- 永代経懇志: 浄土真宗などで、永代にわたり仏法を伝え、お寺を護持するために納めるものです。相場は3万円〜10万円程度と言われることが多く、一度納めれば終わりではなく、毎年の法要で追加の懇志を求められるケースもあります。
- 建物修復懇志(修繕寄付): お寺の規模や修繕の規模によりますが、多くの場合、「一口〇万円」と寺院側から目安が提示されます。
金額を判断する際は、単に相場をなぞるだけでなく、法要の規模(参列者の数や会場の大きさ)や、日頃からのお寺との関係性を考慮して決めることが大切です。
懇志を包むお札の準備(新札・旧札の使い分け)
お札の選び方は、仏事における金銭の包み方でしばしば疑問に上がります。
- 新札の使用: 葬儀(香典)では「不幸を予測して準備していた」と連想されるため新札を避けるのがマナーですが、法要や懇志は事前に準備するものです。したがって、懇志には使用感のないきれいな新札(または準新札)を使用するのが一般的で、失礼にはあたりません。
- 中袋の記入: 金額は、偽造防止のため「金参萬円也」のように大字(旧漢字)で記載します。加えて、住所と氏名を必ず記入してください。
| 漢数字(通常) | 大字(旧漢字) |
|---|---|
| 壱万円 | 壱萬円 |
| 弐万円 | 弐萬円 |
| 参万円 | 参萬円 |
知っておきたい「懇志の袋」の選び方・表書き・渡し方のマナー
慣れない法要の準備では、「袋の書き方」という実務的な部分で最も不安を感じるかもしれません。ここでは、のし袋の選び方から、渡し方まで、失礼のない一連の流れを丁寧に解説します。
懇志を包むのし袋(封筒)の選び方と水引のルール
懇志は弔事(葬儀)とは異なり、お祝い事でもないため、のし袋の選び方には特に注意が必要です。
- 水引の種類: 結び切り(一度きりを願う)または、水引のない白無地の封筒を選びます。色は、一般的に白黒や双銀、あるいは白黄が用いられます(地域や宗派によっては白黄が使われます)。
- 熨斗(のし)の有無: 熨斗は元々、慶事(お祝い事)の際に添えるものです。懇志はお祝いではないため、熨斗が付いていないのし袋(仏事用)を選ぶのが正しいマナーです。
- 封筒の色: 白い封筒(奉書紙)を使用するのが最も丁寧な選択肢です。
「御懇志」の正しい書き方と中袋への記入方法
のし袋の表書きは、毛筆または筆ペンを使い、濃い黒色で丁寧に記入します。
| 記入箇所 | 記載内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 表書き上段 | 懇志、御懇志 | 永代経の場合は「永代経懇志」と書く |
| 表書き下段 | 施主の氏名 | 施主(世帯主)のフルネームを中央に記載 |
| 中袋の表面 | 金額 | 「金参萬円也」のように大字で記入 |
| 中袋の裏面 | 住所・氏名 | 郵便番号、住所、氏名を漏れなく記入 |
※香典で使われる薄墨は、「涙で墨が薄くなった」という意味合いがあるため、事前に準備する懇志には使用しないよう気をつけましょう。
袱紗(ふくさ)を使った丁寧な渡し方と適切なタイミング
懇志やお布施は、むき出しのまま手渡すのはマナー違反とされています。必ず袱紗(ふくさ)に包んで持参し、切手盆(きってぼん:小さなお盆)に乗せてお渡しするのが最も丁寧な作法です。
- 袱紗から取り出す: 僧侶や寺院の方にお渡しする直前に、袱紗から取り出します。
- 向きを変える: 切手盆に乗せるか、袱紗を座布団代わりにして、相手から表書きが読める向きにして差し出します。
- 言葉を添える: 「誠に恐縮ですが、お寺のご護持(ごじ)にお役立てください」など、一言添えてお渡ししましょう。
渡すタイミングは、法要が始まる前の挨拶時、あるいは法要後の会食前に、僧侶が退出するタイミングを避けてお渡しするのが一般的です。
法要の懇志で迷う!宗派や金額に関するよくあるQ&A

「うちの宗派ではどうなの?」「本当に断ってもいいの?」など、具体的な場面で迷いがちな、懇志に関する疑問にお答えします。
Q. 「懇志のお願い」が届いた場合、必ず納めないといけないですか?
A. 寺院への「懇志のお願い」は、原則として強制ではありません。 懇志は、あくまで寺院の維持・運営を支援するための「真心からの寄付」です。経済的な事情で負担が難しい場合は、無理に納める必要はありません。
とはいえ、日頃お世話になっている寺院からのお願いであるため、納めないことで関係性が悪化しないか心配になるかもしれません。その場合は、率直にお寺に事情を相談するか、あるいは「今回は見送らせていただきます」と丁寧に伝えるのが、誠意ある対応です。
Q. 永代経懇志と永代供養料は何が違いますか?
A. 意味合いが大きく異なります。 特に浄土真宗では、この違いが非常に重要視されます。
- 永代経懇志: 故人のためではなく、「仏法が永代にわたって伝えられるお寺の護持(維持)を支援する」ための寄付です。
- 永代供養料: 故人の成仏を願い、「寺院や霊園がお墓や遺骨の管理・供養を永代にわたって行う」ための費用(管理費的な性格)です。
浄土真宗には「供養」の概念がないため、代わりに「永代経懇志」という表現を使います。ご自身の宗派がどちらの表現を使うのか、事前に確認しておくのが安心です。
Q. 浄土真宗で懇志を納める際、特に注意すべき作法はありますか?
A. 表書きと香典の作法に注意が必要です。
- 表書き: 浄土真宗では、寺院の維持・護持への支援としての「永代経懇志」が頻繁に使われます。
- 香典: 葬儀や法要で持参する香典の表書きは、故人がすぐに仏になるという教えから、「御霊前」は避け、「御仏前」を使うのが原則です。
- 水引の色: 地域差はありますが、白黒や双銀の結び切りが一般的です。浄土真宗では、水引の結び方(結び切りや蝶結び)が持つ「繰り返さない」「繰り返す」といった迷信的な意味合いは特に重視されません。
不安を解消し、気持ちよく法要に臨むための最終チェック
「懇志」は、僧侶への謝礼である「お布施」とは異なり、寺院の維持・運営を支援するための「真心からの寄付」です。法要の準備を任された方は、慣れない作法で不安になるかもしれませんが、大切なのは金額の多寡ではなく、仏様や故人、そして日頃お世話になっているお寺に対する「まごころ」です。
ここまでのポイントを最終チェックして、気持ちよく法要に臨みましょう。
- 定義: 懇志 = 寺院の維持・運営のための寄付(お布施とは用途が違う)
- 相場: 地域やお寺の慣習に聞くのが最確実。永代経懇志は3万〜10万円が目安。
- 袋: 熨斗なし、白黒・双銀または白黄の水引付きの袋、または白無地封筒。
- 作法: 濃い黒の筆ペンで「御懇志」と書き、袱紗に包んで丁寧にお渡しする。
法要で必要な物品の準備や、僧侶との具体的な打ち合わせ方法など、次のステップで必要な情報をお探しでしたら、他の記事もぜひご参考ください。